アクアショップ店員が語るハタゴイソギンチャクの飼育

ハタゴイソギンチャク Stichodactyla gigantea (Forsskål, 1775) 

ハタゴイソギンチャクはニモとして有名なカクレクマノミをはじめとしていくつかのクマノミが共生するイソギンチャクとして知られています。本稿ではハタゴイソギンチャクの飼育について事実とそれに伴う考察を交えながら解説していきます。

飼育設備

・水槽の大きさについて

ハタゴイソギンチャクは野生化だと1mを超えます。さらに、後述のように捕食性の高い生物であり。餌をあげる必要があると成長は非常に速いです。そのため、最低でも90cm水槽を用意しましょう。

・水質

硝酸塩、リン酸塩ともに少ない方がよいです。といっても0にするとかえって悪影響を及ぼすようです。汚すぎずかといってきれいすぎるのもよくないようです。しかし、環境の変化の激しいタイドプールでも生息できることから水質についてはまだまだ調べる価値はあると思います。適度な硝酸塩の減らし方は今後作成する記事の「硝酸塩の減らし方」についてご覧ください。

・温度

25℃前後にするのが適当です。といわれていますが自然では干潮時に天日干しになっていることが多く、温度については疑問が残ります。長期間30℃以上にするのはビブリオ菌の活性化や白化を招くのでなるべく30℃を超えないようにするのが好ましいと考えられます。もちろんそのリスクを飲み込めるメリットがあるのならば超えてもよいかと思います。

・絶対に必要な物

・ろ過装置

必ずろ過装置は用意しましょう。今後当サイトでもろ過システムについて解説しますが、空気を含む点や、そのほかの設備を入れられることからオーバーフローシステムが最適です。

.温度調節器

ヒーターやクーラーもあるとよいでしょう。イソギンチャクはサンゴと同じように褐虫藻と呼ばれる藻類を共生させています。褐虫藻を共生させているイソギンチャクは高温に弱く、長期間高温やほかのストレスにさらされると自ら褐虫藻を放出して白化してしまいます。給餌によりエネルギーを摂取させて生かすことは可能ですが、長期間の白化によるデメリットは解明されていません。そのため、なるべくストレスは軽減させるのがよいでしょう。

・ウェーブポンプ

イソギンチャクは波に揺られることで代謝を行っています。波に揺られなければ呼吸ができずに死んでしまいます。必ずウェーブポンプをつけましょう。直線的な水流をイソギンチャクに流れを当てると非常に嫌がりますのでどこかに反射させるか、死んだエダサンゴなどを用いて水流を壊してランダムに当ててあげると非常に喜びます。

・その他必要な物

・ライト

ライトは必須じゃないの?と思われる方もいると思います。必須です。しかしながら、LEDかメタハラ(現在の入手法に関しては不明)のどちらに関しても強すぎる光は嫌がります。これは強光阻害という現象でが起こり、光合成ができなくなるためだと考えられます。また、ハタゴイソギンチャクに関しては白化しても給餌を継続すると生かせる(筆者は未経験)ようなので摂餌によるエネルギー確保も少なからずあると考えられます。

・プロテインスキマー

ほぼ必須級に必要です。有機物を除去してくれるので生物の飼育が非常に簡単になります。しかし、必須微量元素をはじめとした添加物を除去してしまうとの話もあるのでお好みで。なお、使用しない場合は水替えを行って対応してみてください。

・添加剤(主にカルシウム系)

イソギンチャクの飼育において、理由は不明ですがカルシウムが非常に有利に働きます。また、必須微量元素があると飼育に有利です、なお、真偽は不明ですが、沖縄の研究所でハタゴイソギンチャクを4等分にした際、沖縄の海水を用いることで4個体に再生したという話もあります。ひょっとしたら何らかの微量元素がハタゴイソギンチャクの飼育に関して関与している可能性があります。

以下私が使用している添加剤を紹介しておきます。

ミネリッチという名前で販売されていると思います。原理はわかりませんが使用した際に若干程度弱ったハタゴイソギンチャクが元気を取り戻しました。もちろん水流の変化やそのほかの要因が絡み合って回復した可能性も否めませんので参考までに。

クマノミとの共生に関して

ハタゴイソギンチャクはカクレクマノミやブラックオセラリス、クラウンアネモネフィッシュと共生することが知られています。水槽内を移動するセンジュイソギンチャクに比べてハタゴイソギンチャクは比較的移動が少ないので多くのアクアリストから好まれている印象です。

よく販売されているハタゴイソギンチャクは10 cm以内です(イソギンチャクは体の大きさが大きく変わるのでどこを基準にしているかは各業者様に依る)。本来ハタゴイソギンチャクは1mを超えるものもおり、非常に巨大化する種です。それに対しカクレクマノミは最大15 cm程度といわれています。小さいハタゴイソギンチャクに比較的大きなクマノミを共生させるというのはハタゴイソギンチャクにとってストレスになるのではないでしょうか。

沖縄県で撮影した写真です.このハタゴイソギンチャクにはカクレクマノミが1ペアのみ共生していました。

一部のショップではクマノミを共生させるとイソギンチャクの生存率が上昇すると言い、セット販売のようにセールスしてくる場合もあります。実際、自然界ではポリプ食のチョウチョウオがいたりするため、クマノミと共生させることで生存率が上がったりする可能性は否めません。ですが、水槽内での生存率に寄与するかは不明です。

ハタゴイソギンチャクは比較的大きくなるのが速い種ですので、小さいうちはクマノミを共生させずに飼育し、大きくなったら比較的小さなクマノミを共生させるのがイソギンチャクにとってストレスが少ないかと思います。

給餌に関して

本項はほとんど考察です。ハタゴイソギンチャクの飼育歴が長い方はもしご意見がございましたらご一報ください。ご紹介させていただきます。

ハタゴイソギンチャクは褐虫藻を共生させており、光合成のみで生活ができるといわれています.これに関しては二点疑問点があります。

・一点目は原産地のように生物多様性の高いところで光合成のみで行うくらい食物に困るのか

・二点目に光合成のみで生活できるに足るエネルギーを得れるなら捕食システムが関して退化せずに現存している理由はなにか

上記の二点に対する科学的な回答はできませんが、自然界では食物に困らない程度にほかの生物を捕食しているのではないかと考えられます。そのため、私が飼育しているハタゴイソギンチャクは週に4回程度でアサリを給餌しています。

餌に関しては添加物無添加の冷凍アサリを使用しています。イソギンチャク用のエサは与えたことがありませんので回答は控えさせていただきます。

また、ハタゴイソギンチャクは餌を捕獲すると2~3分程度で口の中に餌を収めてしまうくらい食に対して獰猛です。しかしながら海外産のイソギンチャクは餌を食べません。ほとんどが餌を口に入れないか口に入れても2時間程度以内には吐き出してしまいます。先日入荷したハタゴイソギンチャク8個体に給餌を行いましたが、すべてのイソギンチャクが吐き出してしまいました。移動のストレスもあるのかもしれません。しかしながら、海外産のハタゴイソギンチャクは入荷1週間たっても吐き出す個体がおり、一概に移動のストレスといえるわけでもないようです。(吐き出した個体はたいてい急速に弱って死にます)

それに対し、沖縄産ハンドコートのハタゴイソギンチャク(完全に開いた状態で15-20cm程度)は導入3日目に事故により体長7 cm程度のゴマハギを捕食してしまいました。その後吐き出したり弱ったりする様子もなく元気に過ごしております。そのため輸送のみで捕食ができないほど弱るというのも考えにくいです。

現在の私の中での結論としては、①給は積極的に与えた方がよい、②餌を食べれない個体は何らかの要因で瀕死の状態まで弱っている、とまとめております。

ハタゴイソギンチャクの飼育に関する混乱

ハタゴイソギンチャクの飼育に関しては様々なうわさが飛び交っています。これに関してはアクアリウムショップの店員が死にかけのハタゴを売るため、意図的に誤解を生じさせていることが要因だと考えます。本稿ではその噂についての真偽を野生個体および今までに観察してきた飼育個体より解説します。

ハタゴイソギンチャクの特徴

ハタゴイソギンチャクをはじめとしたイソギンチャクの状態の見極めは非常に難易度が高いです。私のようにアクアショップで働いている人間でも状態の見極めを完璧にこなすことは不可能でしょう。理由としては以下のことが挙げられます。

・イソギンチャクはよく形状変化を行うものである。

・脊椎動物に比べて動きが非常にゆっくりである。

・薬物採取やストレスを受けた個体が状態を反映させるのは1~2週間後である。(その間は一見すると元気な個体に見える場合もある)

このような要因からもうすぐ死ぬ個体と元気な個体の区別は非常に難しいです。特に、ハタゴを飼育したことがないような方や初心者の方には見分けは不可能といえるでしょう。

ハタゴイソギンチャクの噂に関する真偽

ハタゴイソギンチャクの購入に際してペットショップの店員がよく用いる特徴があります。それの真偽を考察しながら回答していきます。

・ハタゴイソギンチャクの触手がよく張り付くから元気

→回答△ 間違いではありません。実際に野生のハタゴイソギンチャクは触手を引きちぎらないとはがれないほどはりついてきます。ですが、刺胞の発射機構に関しては未だに未解明の部分が多く、必ずしもこの通りとは言えないです。足をはがした後には流されまいとビニールやライブロックに張り付く様子が観察できます。

・ハタゴイソギンチャクの足がよく張り付いているから元気

→回答△ 間違いではありません。しかしながら爪で簡単にはがせるのは活着が弱いに入ります。自然界では活着力が強すぎて採取する際にほぼ足が破れてしまいます。本来はそのくらい活着が強いです。

左:シンガポールのとある場所での野生個体 右:沖縄県での野生個体 潮間帯から干上がっています。

両方ともアクアリウムショップで販売する個体の感覚ではがそうと試みましたが活着が強く、はがせませんでした。もちろん、ガラスと岩でははがす難易度が大きく異なることが予想されますが、それでも頑張ってもはがれなそうなほど強固に活着していました。(両個体とも採取はしていません。採取に関しては全く知識がありませんので、採取する際は現地のルールや法律を順守して行ってください。国や都道府県によって大きく異なる可能性があります。)

・移動によるストレスで縮んでいるだけ。水槽に入れたら復活する。

→× 入荷当日で導入直後だと縮んでいる可能性がありますが、その後は縮むことはありません。一度でも以下のよう縮んだハタゴイソギンチャクは残念ながら一度も2週間を超えて飼育できたことはありません。

縮むイソギンチャク。このような縮み方はなぜ起こるのか未だに不明です。現在飼育している沖縄産のハタゴイソギンチャクは一度もこのような縮み方をしていないです。

・この色は浅海性(浅いところ)の個体です。

→× 働いている職場ではないですが過去に一度だけ言われたことがあります。写真を添付しますが白化してると考えられます。元に戻せるかの実験込みで購入したのですがほぼ死着でした。色については着色している場合もあり、注意が必要です。基本的な色に関しては茶色に近い褐色、たまにグリーンを見かけるくらいです。

これは白化している可能性が非常に高いイソギンチャクです。また、このような色は浅海にはいるかは不明です。

水槽に入れて2日後に溶けた姿で発見されました。本個体は共に飼育していたサンゴやほかのイソギンチャクにも大ダメージを与えました。店舗名は出しませんが、沖縄産と書かれていました。沖縄産が2日でここまで溶けるようなダメージを受けるとは考えにくいです。また、色に関しても浅海性のものと白化の違いを見抜けなかったことからショップ店員でも自信をもってイソギンチャクを見分けることは難しいのでしょう。

なお、この沖縄産といわれていたイソギンチャクは2026年の年始あたりにセールで一万円程度で購入しました。果たして沖縄産のハタゴイソギンチャクがセールで一万円程度で売られるのでしょうか...

アクアリウムショップ店員から見る良い個体の選び方

良い個体とは状態の良い個体であると思います。まずは見分けるポイントを2つご提示します。

①触手が細長く水流になびいている

②手や網、袋などに触手が張り付く

この2つが主に確認するべき項目かなと思います。

左:状態の良いハタゴイソギンチャク 触手が非常に長くなびいている。右:1週間後に死んだ個体。一見状態がよさそうに見えるが若干触手が縮んでいる。

次に,選んではいけない個体を紹介します.

①一度でも縮んだ個体

健康なイソギンチャクがこのように縮むことは基本的にないです。やはり致命的と考えられるようなストレスや悪影響を受けている可能性が非常に高いです。

②口から内臓が出っぱなしになっている個体

ほぼ死んでいます。水槽に戻すと胃袋が戻ると言われますが、基本的に死ぬ前に売りさばきたいだけであることが多いです。

左:縮こまった個体 右:口から内臓が出ている個体 

何とも言えない個体

①口を開いている個体

これに関しては何とも言えないです。上記写真のように力なく開いている場合は基本死にます。しかし、健康な個体もたまに口を開くことがあります。理由は不明。排泄をしているだけなのかもしれません。

病気に関して

ハタゴイソギンチャクが罹るような病気は基本的にありません。または何らかの病気に感染しても人間に分かるような症状が出ません。しかしビブリオ菌により生きたまま溶けるということがあります。ビブリオ菌は30℃を超えると活発になる菌ですので、ハタゴイソギンチャクの飼育環境で蔓延するということは稀かと思います。

クマノミが口をつつく???

共生しているカクレクマノミが口をつつくことがあります。これに関して理由は不明です。ネットを少し調べると内臓をつついているだとか排泄を促しているという答えが出てきますが、私は両方当てはまるのではないかと思います。理由が分かる方はぜひ教えてください。

あとがき

ハタゴイソギンチャクは人気とは裏腹に飼育に関する記事がとても少ない種であるように感じます。情報が少ないというのは嘘やでっちあげに対する対抗策を持たないことともいえます。イソギンチャクのライフサイクルは非常に長く、我々が気軽に行えるような繁殖方法も確立されていません。私はこのような生物をいとも簡単に殺してしまうのはやはりよろしくないと考えます。また、可能であれば皆様にもハタゴイソギンチャクの美しさを、未来永劫我々の子孫にも伝えていくためにもなるべく私の失敗から参考になるように伝えていきたいと考えております。

この記事も経験と憶測が少なからず混じっており、すべてが根拠のあるものではありません。なので、ここは明らかに違うという場所があればお伝えいただければ修正いたします。よりよい記事作成にご協力ください。

ここまでご覧いただきありがとうございました。修正箇所があれば修正いたしますのでぜひご意見をお聞かせください。なお、その際は証拠や根拠になりえる写真、論文等をいただけると幸いです。

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